しまねの職人

【そば遊山】蕎麦とそば前、純米酒で、“呑んで憩う”

〜島根の旬の味を選りすぐりの純米酒とともに〜

VOL.22

そば遊山 奥井 淳さん

国宝 松江城から歩いて10分ほどの京店通り。
石畳の通りには創業100年を超える老舗旅館や老舗菓子屋のほか、
レストランやカフェ、雑貨店、ブティックなどが軒を連ねています。

その一角に店を構えるのが、“呑んで憩う”がコンセプトの「そば遊山」。
杉の木がふんだんに使われた店内には、ゆったりとしたカウンターと小上がり、
その間を仕切るように設けられた棚には、ずらりと純米酒が並びます。

島根の自然の恵み、旬の旨みをしみじみと愉しんでほしいという、
店主の奥井さんにお話を伺いました。

そば遊山オープンの背景

そば屋を経営することになったきっかけは
もともと頭の中に“蕎麦と日本酒のお店”というコンセプトはあったんですが、直接のきっかけは京店に店舗物件を見つけたことでした。
具体的なことが決まっていない状態で物件を借りて、ちょうどその頃、蕎麦と日本酒のイベントを個人的にやっていた本間君とも知り合い、話を持ちかけたところ、「いいですね、それ自分も考えてました」と。
それで一緒にやろうとなり、本間君に蕎麦と料理を任せて、僕は日本酒担当として、このお店を開くことになりました。
蕎麦と日本酒のコラボレーションの魅力とは
今の世の中にあふれているのは、食べ物にしてもお酒にしても、素材の旨みが消えるほど味を足し過ぎていたり、ただ酔っ払うために飲むような大量生産のお酒だったり、しみじみしたり、ほっとしたりするものがあまりないと思うんです。

それに対して、蕎麦と日本酒はどちらも素材として見たときに、より美味しさが際立つものなので口にすると「ほっ」としますよね。
日本酒は飲むだけじゃなくて調味料としても使われますが、どちらの場合もしみじみ「いいな…」と滋味を感じられるものじゃないですか。

僕たちはそういう“しみじみしたり、ほっとするもの”を提供したいという思いがあって、そこに共感してくださるお客様がお店に来られているのかなと思います。
日本酒に行きついた理由
「島根や山陰のもので、世界と勝負できるものはないか」と考えていて、日本酒と蕎麦とそば前にたどり着いたんですが、それは山陰には真っ当に造っている酒蔵が多いからです。
そういう酒蔵の日本酒は、酔うためだけに飲むのではなく、食事と共に味わうためにも飲むお酒です。
幸いにも島根にはたくさんの酒蔵があり、距離も近いので、実際に造っている現場に気軽に足を運べますし、酒蔵の人も応援してくれますから、僕たちと酒蔵、酒屋の間でいい関係を築きやすいということもあります。
お店では一応全国のお酒を扱っていますが、自然と山陰両県のお酒が多くなっていますし、東京などでも山陰のお酒がおいしいと注目され始めているのは、やはり山陰にはいい酒蔵が多いからですよね。

料理へのこだわり

料理の仕込みなど、一日の仕事の流れは
料理の仕込みについては、その日に始めるのではなく、早ければ数週間前から“季節のお品書き”のイメージを決めて、本間君に動いてもらいます。

飲食店は仕込みがすべてと言っても良いんですが、僕たちは“ライブ”を大事にしたいので、お客様がいらっしゃるところでベストパフォーマンスを発揮できるように意識しています。
お客様にどのように愉しんでほしいか
僕たちがやろうとしているのは“原点に戻る”こと。 
ファストフードではない食べ物を出すことです。
お客様は夜、わざわざ時間を取って食事に来てくださっていますから、そば前とお酒、食事をゆっくり愉しんでもらって、それがいい時間の使い方であってほしいという願いがあります。

流し込むのではなく、ちょっとずつ食べて、それが染みるような感覚を味わってほしいですね。
日本人はそういう感覚を持っていると僕は信じていますし、島根は食材がすごくいいので、そういう食材をしみじみと愉しんでほしいと思います。
日本特有の食中酒であるお燗を、それぞれのお料理に合わせてお出しすることが結果、お客様の満足度につながるとの思いですので、日本酒をどう注文すればよいか分からない時は「お任せ」と言ってもらってもいいですし、ご要望があれば気軽にご相談いただければと思います。

そば遊山のこれから

チャレンジしたいことなど
食事にしてもお酒にしても、素材に向き合っていくことは、今後もぶれずにやっていきたいですが、さらにそこだけをもっと追求したり、進化させていきたいですね。

日本酒や蕎麦、和食の世界は、伝統的でなければいけない上に進化もしなければいけないわけですが、酒蔵も料理人もそういう努力をしてきているし、お客様もいろいろなところで食べて経験しておられるので、一番ご存じです。僕たちもお客様に対して恥ずかしくないように、進化していかなければいけないと思っています。

島根でやる意味
このお店は島根じゃないとできないですね。
東京に出してほしい。ニューヨークに作ってくれというような話もありますが、食材が手に入りませんから、同じ店をやることは到底できません。

うちは定番以外に旬の食材を使った料理を出していますが、季節ごとの食材が豊富な島根だからできることなんです。
旬の変化に合わせて料理が変われば、一緒に飲む日本酒も変わりますよね。
旬というのは2週間程度しかないと思っているんですが、旬の移り変わりを逃さず、それこそ“ライブ”的に、料理もお酒もそのときどきにベストなものをお客様に提供する…このスタイルは島根だからこそで、うちだけではなく、松江にはそういう飲食店が多いと思います。
島根の飲食店の強みとして、これからも続けていかなければと感じています。

そば遊山について

店内は洒落たつくりで、そば屋というよりダイニングバーのよう。
“呑んで憩う”というコンセプトの通り、とても居心地のいい空間です。

ここで最初にいただくのは、島根の食材にこだわったそば前と店主が選び抜いた純米酒です。

そば前とは、蕎麦が運ばれてくるのを待つ間、お酒とともに愉しむ料理のこと。
そば刺しやつくね焼き、そば味噌、だし巻きといった定番のそば前の他に、季節に応じて変わる“本日のお品書き”が用意され、例えば冬はジビエ、春は山菜など、島根の旬真っ盛りの食材を活かしたメニューが並びます。

お酒は山陰のものを中心に純米酒が充実し、並んだ一升瓶を眺めているだけで楽しい気分に。
いずれも店主こだわりの銘柄で、お燗、ひや(常温)、冷酒まで多彩なラインナップです。
お酒のメニューもありますが、ここは店主に相談するのが良いでしょう。
メニューにないものも含めて好みや料理に合うお酒を、お燗のつけ方なども調節して絶妙な温度で出してくれます。
おすすめされたお酒は料理の味を引き立てており、その両方を、より一層おいしく愉しむことができました。

そしてしめの蕎麦は、二種類の粗挽き蕎麦を手打ちで提供、もちろん打ち立てです。
挽きぐるみ九一蕎麦は、そば殻ごと挽き込んだそば粉九割に小麦粉一割の蕎麦で、香りが強く、濃厚な蕎麦の旨みが感じられます。
丸抜き十割蕎麦は、つなぎを使わずそば殻を取り除いたそば粉のみの蕎麦で、なめらかな食感と蕎麦の甘味を感じられるのが特長。
定番の割子、ざる、釜揚げ、しじみ蕎麦の他に、ゆば蕎麦やアカモク蕎麦など、季節限定の蕎麦も用意されています。
今回、丸抜き十割のざる蕎麦を、汁をつけずに藻塩と本山葵だけでもいただいてみましたが、その独特の食感と香り、蕎麦そのものの味を堪能できる食べ方、ぜひお試しください!

地の素材にこだわったそば前、厳選された純米酒、打ち立ての粗挽き蕎麦…。
良質な自然のものを口にし、ゆっくりと、しみじみ味わう時間は、極上のひとときでした。

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