指物(さしもの)とは、釘を使わずに木を組み立てて作られる木工品のこと。
平安時代の宮廷文化に起源をもつとされる伝統的な技法です。
鑿(のみ)を使って凹凸を掘り込んだ木と木の接合部分は外からは見えません。
見えない部分に繊細かつ高度な細工が施されているのが指物の特長で、
数十年あるいは百年を経ても使いつづけられるといわれています。
島根県益田市に、この指物の技法を受け継ぐ指物師がいます。
地元産のけやきや桑、桜、桐などを使った木工品を作りつづけて60年以上。
廣兼家具店の廣兼さんにお話を伺いました。
廣兼家具店の歴史
- 指物師の道に進んだきっかけはなんでしょうか
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中学を卒業して15歳で修行を始めました。
まだ若かったのでなにも考えずに、ものづくりが好きだというだけで指物師を目指しました。
厳しい師匠でしたから、朝の7時から昼食も休憩もなしにぶっとおしで働いていましたね。
ただひたすらものづくりに打ち込む毎日でした。
- 師匠の教えで心に残っていること、独立してからのことなど
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木と木を組み合わせる「組手」の細工がとにかく大切だと教えてもらいました。
当初は独立することは考えていませんでしたが、8年ほど修行を積んでこの店を創業しました。
修行中も苦労しましたが、独立してからも苦労しましたね。
自分で考えて工夫しながらお客さんのいろいろな注文に応じたものを作るのが大変でした。
師匠のところでは技術は教わりましたが、そういうことについては教わりませんでしたから。
指物の技法を極めつづける
- 指物づくりで難しいところは
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木は十分に自然乾燥させてから板材にしますが、少しでも水分が残っているとそれが乾燥する過程で収縮して、変形したり割れたりすることがあります。
特に今はエアコンで室内の空気が乾燥しやすく、昔よりも収縮が起きやすいんです。
そこで、後々変形したり割れたりすることがないように、「留め(とめ)」という接合に使う木は火で炙って徹底的に乾燥させる方法をとっています。
指物で一番難しいのは、2枚の板を接合する組手の細工「ほぞ」を作ることですね。
ほぞが凸型の男木(おぎ)と凹型の女木(めぎ)を作るときに、内と外を間違えてはいけないことと、位置が少しでもずれてしまうと板が噛み合いませんから精確に作り上げないといけません。
- 木を組み合わせる技法について教えてください
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組手は、凸型の「ほぞ」を凹型の「ほぞ穴」よりもほんの少しだけ大きく作り、割れない程度に玄翁(げんのう)で叩いて圧縮させて「ほぞ穴」に差し込みます。
差し込んだ後に「ほぞ」が膨らんで元の大きさに戻るので、「ほぞ」と「ほぞ穴」がぴったりと嵌め合わさって抜けなくなり、2枚の板が隙間なく強固に接合されるわけです。
断面を45度にカットした板材を接合する「留め」という技法では、接合部が離れて隙間ができないように楔(くさび)で止めています。
ほぞの形や角度、大きさ、数などは、使用する板材の大きさや重さ、厚み、硬さを考慮して自分で決めていきますし、家具の設計図なども自分で作ります。
三方留めという接合技法は、昔からあったかもしれませんが教わったわけではなく、天板と脚の留めの強度を高めるためにはどうしたらいいか追求する過程で考えついたんです。
この方法だと年輪のある木の切り口がどこからも見えないので、仕上がりも美しいです。
三方留めの細工は非常に手が込んでいるので、作るのに3日ほどかかりますね。
- 指物づくりでこだわっていることは
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日本間に合うような寸法で家具を作っています。
障子や襖からはみ出したら不格好ですから、横幅は三尺一寸六分くらい(約96cm)ですね。
そうすると美しく使い勝手のいいものが出来ます。
そのためか「もう一つ同じものを」と、繰り返し注文されることもありますよ。
指物職人として大事なことのひとつは「胴付き」(どうつき:ほぞの根元周りの平な部分)です。
いかに隙間なく作るか、それによって接合部の強度が決まります。
道具を扱うときの手加減も大事ですね。
全体に美しい丸みや曲線をつけるには、手加減しながら主に鉋(かんな)で削らないといけません。
後から手直しはできませんから、お客さんに満足してもらうために一生懸命にやります。
- 指物職人として一番うれしいことは
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お客さんが二度三度と注文してくれたり、友達を連れてきてくれたりするのがうれしいですね。
以前、東京の音大の先生が観光のついでに工房を見学されて、家具を購入してくださったことがあるんです。
部屋に家具を飾った写真を送ってくださって、「大事にしています」と言っていただいたときはうれしかったですね。
作っているときは、完成するとうれしいと感じます。
何十年やっていても仕事は難しいですし、材料によってまったく作業が異なりますから…
- 廣兼家具店の作品の魅力は
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無垢の木材を使っていますので、素材のよさを活かすために塗装していないことですね。
塗装したものは拭けば削れたり落ちたりしますが、うちの作品は時間が経って使い込んでいくと侘び寂びが出てきますから、そこが大量生産の家具との大きな違いだと思います。
- 技術の継承についてどうお考えですか
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いま技術を伝えているのは息子だけです。
時代が変わって指物の需要が減ってしまっていますから、昔のようにはいきませんね。
- 指物師を続けて来られた秘訣は
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遠方からわざわざ注文に来てくださったり、何度も注文してくださるお客さんがいるのはとてもありがたいことで、そういう方がいるから続けて来られたと思います。
- 2016年の県展で入賞されましたね
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第49回島根県島総合美術展の工芸部門に「肥松十二角茶櫃」を出展し銅賞をいただきました。
初めての経験で実感がないですが、やはりうれしいものですね。
廣兼家具店について
工房を訪ねると壁に、棚に、道具箱の中に、ずらりと並んだおびただしい数の道具が目に留まります。鉋だけで何種類あるのでしょう、どれもすぐ使えるように手入れされていてピカピカです。
木材の乾燥、木取り(裁断)、木削り(鉋で表面を整える)、組手加工から最終仕上げに至るまで、全工程を一人の職人がとことん木に向き合って手作業で行うのが指物です。
さらに、無垢の木材から作られるものなら何でも作るのが指物師。
その仕事を支えているのがこれらの道具なんですね。
作るものに合わせて道具を自作することもあるそうですよ。
組手加工を施した板材を仮組みするところを見学しましたが、「物理的に無理なのでは…」と思われる形状の板2枚が見事に嵌め合わせられる様子はまさに職人技。
そしてさまざまな作品の美しい木目とシンプルな造形美に、ただただ見入ってしまいました。
廣兼さんは以前、どんな音が出るのだろうという好奇心から楽器を作ってみたことがあるそうで、工房にはバイオリンやギターの試作品が置かれています。
到底試作品とは思えないまるで芸術品のような楽器は、ため息が出るほどの美しさでした。
手を抜くことのないものづくりを60年以上続けてきた指物師の廣兼さん。
纏っている雰囲気はまさに“職人”、力強い眼差しがとても印象的でした。
木材の乾燥、木取り(裁断)、木削り(鉋で表面を整える)、組手加工から最終仕上げに至るまで、全工程を一人の職人がとことん木に向き合って手作業で行うのが指物です。
さらに、無垢の木材から作られるものなら何でも作るのが指物師。
その仕事を支えているのがこれらの道具なんですね。
作るものに合わせて道具を自作することもあるそうですよ。
組手加工を施した板材を仮組みするところを見学しましたが、「物理的に無理なのでは…」と思われる形状の板2枚が見事に嵌め合わせられる様子はまさに職人技。
そしてさまざまな作品の美しい木目とシンプルな造形美に、ただただ見入ってしまいました。
廣兼さんは以前、どんな音が出るのだろうという好奇心から楽器を作ってみたことがあるそうで、工房にはバイオリンやギターの試作品が置かれています。
到底試作品とは思えないまるで芸術品のような楽器は、ため息が出るほどの美しさでした。
手を抜くことのないものづくりを60年以上続けてきた指物師の廣兼さん。
纏っている雰囲気はまさに“職人”、力強い眼差しがとても印象的でした。
商品ラインナップ
プロフィール
- 廣兼家具店
- 〒699-5132
- 島根県益田市横田町254-1
- 【TEL】0856-25-1235
- 【営業時間】8:00〜17:00
- 【定休日】土・日曜日