しまねの職人

【彩雲堂】江戸時代から続くお茶文化と和菓子が紡ぐ時間

~老舗和菓子店のこだわりと挑戦~

Vol.33

株式会社 彩雲堂 山口 周平さん

松江は国宝である松江城を有し、今でもその周辺は城下町としての風情を色濃く残しています。

江戸時代中期の松江藩主である松平不昧公(まつだいら ふまいこう)は、江戸時代の代表的な茶人の一人として知られ、不昧公が広めた茶の湯の文化は今なお松江の地に根付き、人々はお客様が訪問されたときや、家族団らんの時間にお茶と和菓子を楽しんでいます。

そんな松江の地で、明治7年に創業したのが、約150年続く老舗の和菓子屋である彩雲堂(さいうんどう)さんです。

老舗ならではの商品へのこだわり、また、現状維持ではなく新しいデザイン・商品づくりの挑戦を続ける彩雲堂の六代目社長山口さんにお話を伺いました。

松江のお茶文化について

松江のお茶文化はどのようにして始まりましたか?
松江に茶の湯文化をもたらしたのは、松平不昧公というお殿様なんです。
江戸時代中期のお殿様なのですが、普段は江戸に上屋敷があって、そちらの方にお住まいだったんですが、参勤交代でこまめに松江の方に戻ってこられていたそうで、その時に江戸や京都の文化を松江に伝えたと言われております。
市民も憧れて家にお茶室を作ったりして、お茶の文化が松江の市民にも広まっていきました。
京都や金沢と違う点は非常に茶の湯の敷居が低くて、日常生活の中に溶け込んでいるところです。
作法など細かいところはあまり気にせず、お湯を沸かしてお抹茶の粉を入れてシャカシャカっと混ぜて、インスタントコーヒーのような感覚で飲むというところが、松江の茶の湯のとてもいいところだなと思っています。
現在の松江のお茶文化はどのような感じでしょうか?
お店にご来店される方は観光客の方と地元の方と大体半々ぐらいなんですけど、ご高齢のおじいちゃんおばあちゃんがおられるようなご家庭ですと常に生菓子は在庫があるんです。
急なお客さまがいらっしゃった時にも生菓子がさっと出るとか、あと10時とか3時、そして晩御飯が終わった後、1日何回もお茶を飲むという習慣が古くからある松江の家には今でも残っています。
あんまりカッコつけずに、家族団らんのコミュニケーションツールとしてお茶がある感じですね。

和菓子について

和菓子「若草」について教えてください
「若草」は求肥のお菓子です。
求肥というのはもち米が主原料なんですけども、当社は島根県の奥出雲でとれる仁多米というお米を使っています。
そのもち米を工場の石臼で少しずつ水引きしながら作っています。
水引きしたもち米にお砂糖を加えて約3時間練り上げることによって、非常にコシの強いおいしい求肥ができるんですけども、それに緑色の衣をまぶして完成したのが「若草」です。
もともとお抹茶用のお菓子でして、お茶と一緒に合わせて食べていただくと、とってもおいしいです。
弊社では、この「若草」をちょうど今から100年ほど前に作り上げたんですけども、その当時と変わらない製法原料で作っておりまして、今後もこの「若草」は松江の和菓子として後世に伝えていきたいと考えております。
我が家では正月最初にお茶会をしているんですけども、この時のお茶菓子は「若草」というふうに決まっています。
新しい商品はどれくらいの頻度で作られていますか?
約2週間に一度デザインを変えているんですけども、やはり1ヶ月の中でも上旬・中旬・下旬とでは咲く花も変わってきますし、気候風土も変わってきます。
我々和菓子屋は季節をちょっとだけ先取りするという習慣があり、例えば暑い時期ですと少し先の秋の気配を感じるようなデザインの商品をお出しするように心がけています。
お客様に季節の移ろいを感じていただけるというところが和菓子の楽しみ方の一つだと思っています。
新しい商品の開発はどのようにされていますか?
最近は、営業部のメンバーと製造のスタッフと話し合いをしながら作っています。
色合いや素材ですとか過去に何十年分の蓄積もありますので、その中からよく売れたデザインや、それとは別に新たに職人たちが作ってみたいデザインですとか、そういったものを持ち寄って、ああでもないこうでもないと言いながら考えています。
私の意向はほとんど反映されませんね(笑)。

夏に作っている「満天」というお菓子がございます。
こちらは十数年前に発売したお菓子なんですけども、実は細かな改良を加えておりまして、今年の夏もデザインを変更しまして、改良に改良を重ねて現在に至ります。
和菓子の製造時期について
実は和菓子って歳時記と非常に結びつきがありまして、本当に1年の中でも数日しか作らないようなお菓子もあるんです。
そういったものはSNSと非常に相性がよくてSNSを見られた方がそれが欲しいということでお店にいらっしゃることもあるんですけども、非常に期間が短いものですから「終わったんですか」とショックを受けられる方もいるんですね。
ただ、1年がこうやって巡ると、また必ずその季節がやってきますので、その季節を心待ちにしていただいているようなケースも多々あります。
やはり日本人の心のふるさとが山々の景色だったり、町はずれの景色だったり、自然というものが共通認識であるからこそ、和菓子も成り立つと思います。
和菓子と暮らしの関係性について
季節の移ろいなどを、目で楽しむことがまずあります。
そして和菓子には一つ一つに名前がついていまして、菓銘と言います。
菓銘から山の景色を想像してみたり、川のせせらぎの音が聞こえてきたりと、たとえ家の中にいても想像力を働かせることによって自然の中にワープできます。
そういったイマジネーションを膨らませながら抹茶と一緒に楽しんでいただけるといいと思いますし、実はコーヒーや紅茶にもよく合いますので、日常生活のいろんな場面で和菓子はよく使っていただけると思います。
あとは最近気づいたんですけども、実はお酒との相性もいいということもわかりましたので、より色々な楽しみ方ができると思います。
ぜひ、自分のこれだという組み合わせを見つけていただければなと思います。

彩雲堂について

老舗の味と歴史を守り抜きながら、新しい商品へのチャレンジを積み重ねている彩雲堂さん。
松江市では今でもお茶の時間に和菓子をご用意している方が多いそう。

取材時にも常連のお客様がお店のスタッフの方とゆっくりとお話をしながらお買い物を楽しんでいらっしゃいました。
ゆったりとした時間が流れる店内はとても居心地が良く、商品を選ぶのも楽しくなりますね。
江戸時代から続く丁寧なコミュニケーションの時間は今でも引き継がれています。

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