しまねの職人

【松本蕎麦店】時代を超え受け継がれた正統派の出雲そば

~200年守ってきた暖簾を未来へ~

VOL.5

松本蕎麦店 安部 啓一さん

日本三大そばの1つである「出雲そば」。
松江城藩主も好んで食べたという伝統の味が、
松江市にあるビルの一角で時代を超えて受け継がれている。

レトロな小物が並び
古い振り子時計がゆっくりと時を刻む店内は
ビルの中だということを忘れてしまいそう。

一度は閉店した歴史あるお店の暖簾を引き継ぎ
正統派出雲そばの店として、また、観光スポットとしても人気の
松本蕎麦店の安部さんにお話を伺いました。

松本蕎麦店の歴史

蕎麦作りに携わるようになったきっかけはなんですか
元々、二代続いていた蕎麦屋に生まれました。
高校生卒業時に母が亡くなったので実家のお店はたたんでしまったんですが、趣味で蕎麦打ちやお店巡りをしていました。
その中で、松江のお蕎麦屋さんに蕎麦打ちを習ったり、蕎麦粉を分けていただいたりとお付き合いをするうちに、NHKの朝ドラ「だんだん」のセットを用いた蕎麦屋を松江にオープンするという話があり、店主さんから「蕎麦屋をやってみないかね」と言われました。
定年後は蕎麦屋をやりたいなとちょうど思っていたので、お受けしたのがこのお店を始めたきっかけです。
松本蕎麦店の歴史を教えてください
この辺り(松江)では松平不昧公がお茶好きのお殿様として知られていますが、実は蕎麦好きでもあったそうです。
蕎麦は庶民の食べ物であったので、本来殿様が食べるような文化はなかったが、松江では殿様が鷹狩りなどをして、そのとき休憩所でお茶と一緒に蕎麦懐石が出ていた流れがありました。
廃藩置県とともに休憩所もなくなりましたが、休憩所で蕎麦を作っていた人の息子さんが蕎麦を受け継ぎ、「松本」という屋号をつけたと先代から聞いています。
一度は閉店してしまいましたが、当時「松本蕎麦店」で修業されていた、一色庵というお店の経営者の方が復活させ、私がその暖簾を受け継ぎました。

復活の舞台裏

セットはどうされたものですか
2008年に放映された、松江市が舞台の朝ドラ「だんだん」に登場した蕎麦屋のセットを、松江市が地域活性化のために買い取ったんです。
ドラマの中では『松本そば店』だったので、実際にあったお店と同じ店名なら!ということで開業しました。
実は当初「こんなところでやってもお客さんなんて来ないだろ」と言われていたんですが、蓋をあけてみたら案外来られていて、「松本と書いてあるがまさかあの松本ですか」と聞かれることもありました。
百何十年前にあったお店を引き継ぐにあたって
歴史のあるお店の暖簾をわけていただくというか、引き継ぐ上でやはりプレッシャーがありました。最初は肩の荷が重かったです。 前のお店の常連さんが納得してくださるかどうかが不安でした。

「味が変わらないね」や「美味しいね」などの声もありましたが、中には「だしが違う」と言われることもありました。
出汁や調味料の分量を変えたこともありましたが、今では自分のものが確立してきて、それをブレることのないようにするのが大事だと思っています。
一口食べて「うまい!」と言われた時には、自分のやってきたことは間違いなかったんだと思えたし、とてもうれしかったです。
蕎麦のこだわり
その日に出す蕎麦は毎朝手打ちしています。手打ちだと想いを込められますから。
なので、ありがたいことに、その日の蕎麦がなくなると早仕舞いすることもあります。
あとは蕎麦の細さは季節によって変えています。本来の出雲そばは太めに切ってあるものですが、夏は冷たい蕎麦向きに細めに切ります。
打ち粉を落とさないので、うま味のある蕎麦湯ができあがりますよ。
蕎麦を茹でる時間もその日の蕎麦の状態や、メニューによって調節しています。

正統派出雲そばとこれから

出雲そばの歴史

出雲大社とからめて出雲そばが広まっていますが、発祥は出雲を治めていた松江藩なので、ぜひ松江でも出雲そばを食べてほしいです。 松江と出雲では出汁の味も違いますよ。
出雲では薄めの甘口、松江では濃ゆ目の辛口です。

これからの目標

出雲そばと言えば"割子蕎麦"が全国的に有名ですが、江戸時代から受け継がれている温かい"釜揚げそば"も、もっとたくさんの方に知ってもらいたいです。
他にも、老舗の味は崩さずに、季節限定の蕎麦やサラダ蕎麦などの新しいメニューを出してみたり。
あとは、蕎麦がおいしいことはもちろん、気軽に来てもらえるようなお店づくりに努めています。
アットホームで家族でわいわいという雰囲気づくりを大切にしています。
蕎麦打ちは、若い職人をきちんと育てて、これからもたくさんの方に愛される「松本蕎麦店」を引き継いでいきたい。

松本蕎麦店について

暖簾をくぐると、まさに別世界。
レトロで懐かしさを感じる店内は、時間の流れさえもゆっくりと感じます。
安部さんご夫婦のほかに、若いスタッフの方もいらっしゃって皆さん和気あいあいとした雰囲気で、とても居心地のよいお店でした。

筆者がいただいたのは"釜揚げそば"
濃厚でとろみのある蕎麦湯に浸かった状態で提供されるので、蕎麦の風味をダイレクトに感じることができます。
通の方は、薬味なども別に出して欲しいと言われるそう。
茹でた蕎麦を水で締めず、釜から直接器に入れるので、柔らかめですが、表面はモチモチ、中心部分にはコシを感じる絶妙な食感を味わえます。

季節限定のメニューも多彩で、行くたびに新しいおいしさに出会えるステキなお店でした。

商品ラインナップ

  • 釜揚げ蕎麦

  • 矩形(くけい)割子そば

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