しまねの職人

【三英堂】受け継がれる味、進化する形

~時代に寄り添う伝統の味と新たな挑戦~

Vol.45

三英堂 岡英介さん

島根県松江市が「御茶処」「菓子処」として知られる背景には、大名茶人・不昧公(ふまいこう)の存在があります。
不昧公が提唱した、しきたりや形式に縛られない自由な茶の湯の精神は、お茶だけでなく和菓子にも受け継がれています。

創業95年を迎える三英堂は、伝統を大切にしながらも、特別な場面だけでなく日常にも溶け込む和菓子づくりを目指しています。
職人の手作業にこだわり、一つひとつ丁寧に仕上げられた和菓子。
現在4代目社長の岡 英介さんは、時代の変化に合わせた商品名やパッケージの刷新といった大胆な取り組みも進めています。
伝統と新たな挑戦が共存する三英堂についてお話を伺いました。

三英堂について

三英堂ができたきっかけについて教えてください
三英堂は昭和4年、1929年の創業で今年で95年になります。
初代、私の曽祖父ですけども島根県松江市にあります風流堂さんで修業をし、独立して三英堂を創業しました。
看板商品は「菜種の里」と「日の出前」というお菓子です。
菜種の里は松江の3大銘菓の一つで、若草・山川・菜種の里で落雁製のお菓子です。
三英堂の看板商品について詳しく教えてください
菜種の里は、菜の花畑に蝶が舞っている様子を表現した春のお菓子で、ストーリー性もあり、昔から親しまれています。
日の出前の最大の特徴は「しののめ作り」という特殊な製法です。
しののめ作りは熱いあんこを何層にも押し固めて作る製法で、見た目は羊羹のようですが、羊羹とは違うしっとりなめらかな食感が特徴です。
日の出前という名前は民藝の世界で名高い島根県安来市出身の河井寛次郎さんが命名されました。

時代に合わせて整える、三英堂が守る軸と変化の理由

四代目になって変えたことがありますか?
「松韻(しょういん)」というお菓子は島根県の県木の黒松をイメージし、松がカサカサ鳴る音を松韻ということから名前がついており、6個入りで販売していました。
6個入りで貼箱に入っていると、ちょっと試しに買ってみたいお客様が手に取りづらかったりしたので2個で一つの小包装での販売も始めました。

また、お餅と小豆のあんこだけのシンプルなお菓子なのですが、松韻という名前だと仰々しく名前と大層な服を着せられてるようなギャップをすごく感じていました。
もっと若い方に手に取っていただきたくて、黒の松もちという少しカジュアルな名前と小さいパッケージに変え、大変好評いただいています。
なぜ変える必要があると感じたのですか?
先代から引き継がれている考え方では三英堂が終わってしまうなと思ったんです。
時代にマッチしていないラインナップであったり、会社としての方針にギャップを感じました。

先ほどのパッケージもそうですが、時代はやっぱり食べきりサイズであったり、個包装というトレンドもある中でそういったことも取り入れつつ、三英堂の軸という部分は変えずにやっていった方がいいんじゃないかなとも思っています。
時代に合わせて今まで引き継いできた伝統をまるごと変えるのではなく、時代に合わせて整えていくという考え方で変化させてきました。

三英堂の軸

三英堂が守り続ける伝統と、時代に合わせた工夫のバランスとは?
うちは創業から95年経ってるんですけども、松江のお菓子屋の中では歴史が比較的浅い部類に入ります。
その中でお客様に親しまれてきたのは、やっぱり初代が作ったあんこのレシピだったり、そこを変えずにずっとやっていくということ。

お菓子自体もパッケージなど少しずつ変えてはいますが、変えるものと変えないものというのをきちんと線引きしていくということが大事かなと思っています。

新商品とか既存の商品のリニューアルは常に考えています。
会社としてブランディングをきちんとやっていきたいと思っているので、整えていった上で、それに合わせてリニューアルだったり、いい商品を考えていきたいと思います。少しずつにはなりますが、変えていきたいですね。
これからの三英堂について教えてください
私自身、代替わりして1年足らずです。
父が会長ですが、手伝ってもらわないとできないことばかりで。
現在は従業員や職人の皆さんがこれまでのやり方や考え方に慣れているため、新しい取り組みに馴染んでいくのに少し時間がかかっている状況です。

私の代になり、「三英堂はこういうブランドであり、こうした精神性を大切にしていく」という姿勢を従業員の皆さんに共有し、それをお客様にも伝わる形で店舗づくりや商品づくりに反映していきたいと考えています。

三英堂について

取材を通し、伝統を守りながら時代に合わせて進化していく姿勢が、三英堂の魅力の一つだと感じました。

初代が築いた伝統を大切にしながらも、時代の変化に柔軟に対応する挑戦を続けています。商品の名前やパッケージのリニューアルには、ただの変更にとどまらない深い想いが込められており、「黒の松もち」のようにより多くのお客様に手に取っていただける形に整える工夫が光ります。このような取り組みは、伝統を守ることと時代に合わせることの絶妙なバランスがあってこそ実現できるものだと感じます。

また、代替わりしたばかりの岡さんの思いは、三英堂の軸を変えずにより多くの人々に愛される存在でありたいという熱意が伝わってきます。
歴史ある和菓子屋としての誇りと、現代のお客様に寄り添いたいという柔軟性。この二つが調和した三英堂の歩みは、これからも多くの人々の心を惹きつけていくと思います。

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