しまねの職人

【隠岐酒造】“隠岐誉”で知られる 隠岐にただ一つの酒蔵

~日本の伝統文化である日本酒への思い~

VOL.11

隠岐酒造 長谷川 哲さん

日本海に浮かぶ歴史の島、隠岐。
古事記や日本書紀に「天之忍許呂別」(あまおろしのころわけ)、「隠岐之三子島」(おきのみつごしま)と記され、
後鳥羽上皇や後醍醐天皇など多くの貴人にゆかりの地でもあります。

また、奇岩怪礁など悠久の時が創り出した自然に恵まれた観光の島としても知られ、2009年に日本ジオパークに、
2013年には世界ジオパークに認定されています。

その隠岐で40年以上、「酒質の向上に天上なし」を合言葉に一心に酒造りを続けてきた会社、隠岐酒造5代目社長の長谷川さんにお話を伺いました。

隠岐酒造の歴史

隠岐酒造の由来を教えてください
1972年に、当時隠岐にあった蔵元5社が合併してできた会社です。
5社が合併した理由は、小さな島の中で5社が競争していては共倒れしてしまい、隠岐から酒造業がなくなってしまうのではという心配があったためで、中小企業近代化促進法という法律に基づいて、1972年10月に設立されました。
お酒造りにおけるこだわりや一番大切なことは?
日本酒は冠婚葬祭に欠かせないもので、遥か神話の時代から受け継がれてきた日本の伝統文化です。蔵人がそのことを認識し、伝統文化を守るために私たちはお酒を造っているのだという思いをもってお酒を造ることが大事だと思います。
最も重要なのが、蔵の中の“和”です。蔵の各工程にはそれぞれ担当者や責任者がいる。その各工程の責任者が自分の思いのものを造って、次の人にバトンを渡す。その繰り返しが最終的にもろみとなり、最後に杜氏がお酒をまとめ上げる。そうして初めて美味しいお酒ができると考えています。
目指すお酒は、食中酒として飲みやすいお酒です。お酒だけでのむことも大事ですが、食事と合わせてのむことが大事だと思うので、そこにもこだわっています。
そして安全第一、その次にお酒の品質ですね。
蔵の中を清潔に保ちながら、安全に確実にお酒を造っていくことが大切だと思っています。
お客様からの声で印象に残っていることは?
最近は通信販売が多いですが、その中のコメントで、「味が忘れられないから、もう一度買いました。リピートしました」と。そういう声が一番うれしいですね。

日本酒のこれからのために

新商品のアイデアや、試作中のものはありますか?
試作中のものはありませんが、アイデアはあります。
今の状態のお酒を造り続けても、日本酒の可能性は拡がっていかないと思っています。
従来のものとは違った、より進化したお酒を目指していくためのアイデアがあります。
後継者について
難しい問題で、隠岐で生まれた方や、U・Iターンで隠岐に住んでおられる方の手でお酒を造りたいという思いがあります。そうすると、人口がどんどん減っていっている状況で、蔵人の確保が非常に難しくなってきます。あと数年は大丈夫だと思いますが、その先10~15年後にどうなるか、実際のところ見えていないのが現状です。いろいろな行政機関と相談するなどしながら、隠岐からお酒造りが絶えないように、なんとか頑張って考えていきたいです。
若者のお酒離れに対する新たな取り組みなどは?
なかなか取り組めていませんが、SNSで発信するとか、そのあたりはもう少し力を入れなければいけないと思っています。
あとは、新しい商品の話がありましたが、トレンドを作るのは若い女性の方だと思っていますので、そういった方々に好まれるお酒、例えば搾りたての果実のような日本酒などが出来れば、若い女性の方にも飲んでいただけるのではないか。そういう方向性で商品開発を進めていきたいという思いがあります。
隠岐酒造の今後の目標や未来について
まずはこの隠岐からお酒造りを絶やさないこと。これが長い目で見たときの目標ですね。
近い目標は、お酒の品質をあげていくこと。うちのお酒がおいしいと言ってくださる人もおられますが、まだまだ伸びる余地があると思っています。お酒の質をあげていきたいです。
日本酒のトレンドもどんどん変わってきていて、少し前は淡麗辛口な新潟のお酒が売れていましたが、今は甘酸っぱいお酒などが売れているようです。
日本酒に限らず酒類業界全体でさまざまな種類のお酒が出ていますね。チューハイにしてもいろいろな種類がありますが、日本酒も細分化されていろいろな味の日本酒が出てきています。
日本酒の分野でも、香りがよくてジューシーさもあるような、特殊なお酒を造っていかないといけないという気持ちがあります。 あとは先ほど述べた、食中酒として料理とマッチングする日本酒が究極の目標だと思っています。
例えば、白いご飯のようなお酒。白いご飯というのは一生食べても飽きないですよね。どんなおかずとも合う、そういうお酒を造ってみたいです。それが究極のお酒ではないでしょうか。
蔵人たちの和について
例えば、仕事が早く終わればそのまま帰ってもらうとか、長時間労働にならないように臨機応変に対応したり、職場をリラックスできる雰囲気にしたり、働きやすい環境づくりが大切ですね。精神的にストレスをためないことが和につながると考えています。
特にお勧めの商品を教えてください
「隠岐誉純米大吟醸斗瓶囲い」という、一番いいお酒の部類に入いるものをおすすめします。
各種品評会で高評価をいただいているので、この味わい、香り、ジューシーさを、ぜひ男性にも女性にも楽しんでいただきたいです。

隠岐酒造について

取材のために隠岐の島町の本社に到着すると、まず工場の大きさに驚きました。
ご案内いただくと、工場内には発酵したお米の良い香りが広がっています。

お酒造りの作業は精米から貯蔵・瓶詰まで全9工程。
活気のある空間で蔵人さんたちが、それぞれ担当の工程を、一つひとつ真剣に取り組まれている姿に、お酒へのこだわりがあふれていました。

工場内には機械も導入されていますが、手作業でなければ行えない工程が多いところに、お酒造りの繊細さ、蔵人さんの技術力の高さ感じました。

余談ですが、日々お酒造りの現場で麹に触れているためでしょうか、蔵人さんたちの手肌が白く艶々していてとてもキレイなのが印象に残っています。

若者のアルコール離れが進むなか、日本の伝統文化である日本酒を後世に継ぐために、隠岐の島町にただ一つの酒蔵・隠岐酒造の、妥協を許さないこだわりの酒造りは続きます。

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