しまねの職人

【焼火窯】隠岐諸島 西ノ島の唯一の窯元を次代へ継承

~隠岐の大地と自然をモチーフに~

VOL.12

焼火窯 加藤 唐山さん(初代当主)

池田 八重子さん

伴田 さつきさん

ユネスコ世界ジオパークに認定されている隠岐諸島のひとつ
雄大な自然を抱いた西ノ島 焼火山(たくひやま)の麓に
美濃焼の窯元に生まれた夫妻が開いた焼火窯。

ここで島の赤土と、樹木や海藻から作られた釉薬が出会い
独特の色合いと風合いをもつ器が生み出されています。

隠岐の風土に根ざし、隠岐らしさにこだわった作品は
2009年 島根県ふるさと伝統工芸品に指定されました。

2022年1月、元地域おこし協力隊員2人に事業を継承。

ものづくりについて、また西ノ島での暮らしについて
初代当主の加藤さん、後継者の池田さん・伴田さんにお話を伺いました。

焼火窯の歴史(初代当主・加藤さん)

焼火窯の歴史を教えてください
加藤:1998年に開窯し、「焼火窯」と名付けました。
赤土から素地を、樹木や海藻から釉薬など、島の素材を使って焼き物を作っています。

妻は焼き物と同じ赤土で布を染め上げ、定着させるために海で洗い仕上げる「風流(ふりゅう)染め」を手掛けています。
西ノ島に移住を決められた理由はなんですか
加藤:それまで東京や名古屋など都会で暮らしていましたが、「静かなところで陶芸に打ち込みたい」と移住先を探し始め、たまたま1996年に旅行で西ノ島に訪れたんです。
自然豊かな環境が気に入り、移住を決めました。
焼火窯の作品の特徴を教えてください
加藤:なによりも「地元の土と釉薬で作りあげた、隠岐西ノ島独自の焼き物をつくりたい」という思いで作っています。
今後も地元の素材にこだわりながら新たな釉薬を作り出し、世界ジオパークに認定された大地と自然をモチーフに、唯一無二の焼き物を追求していくつもりです。
若い世代にも「伝統工芸」を身近に感じてもらえるような、焼き物を作りたいです。

なぜ西ノ島に来て窯元を継ぐことにしたのでしょう(池田さん・伴田さん)

西ノ島に来ようと思ったきっかけは何ですか?
伴田:もともと製造業で働いていましたが、「一からものを作りたい」と思い始めたときに、西ノ島の「地域おこし協力隊、窯元の後継者募集」に惹かれ、ご縁がありこちらに来ました。
焼火窯を継ごうと思ったきっかけを教えてください
池田:一生の仕事としてものづくりをしたいと思っていたので、そもそも「いずれはこの窯を継ぐぞ」という気持ちで「地域おこし協力隊、窯元の後継者募集」に応募し面接に臨みました。
都会から西ノ島に来てギャップを感じることはありましたか?
池田:東京都心部の生活雑貨店で働いていて帰宅は深夜。
朝は満員電車に乗るためにホームに並ぶという生活でした。
西ノ島では、夕方5時頃には仕事を終え、家族みんなで一緒に食卓を囲む時間がある・・・そういう暮らし方は新鮮に映り、素敵だなと感じましたね。
また、都会と違い雑音も少なく生活がシンプルなので、陶芸に集中できる環境だと思います。

ものづくりに対する想い

師匠である初代当主・加藤さんについて教えてください
池田:初めて先生の作品を見たとき、他ではあまり見ないものが多いなと感じました。
例えば先生は海に潜って海中の造形からひらめきを得たり、隠岐の自然をモチーフにした独自のものを作られています。
窯元が多い島根県では個性を出していかないと、と思うのでいずれは先生のように自分にしかできない作品を手掛けたいです。
作品づくりへのこだわりを教えてください
伴田:先生が続けてきた、隠岐の自然にこだわった作品づくりを私たちも引き継いでいきたいので、島の素材から陶土や釉薬を作ることを続けながら、私たち独自の表現方法も模索していきたいです。
お客様からの声で印象に残っていることは?
池田:旅行中にふらりと立ち寄って器を購入されたお客様が、カップにコーヒーを入れて、お皿におにぎりやパンをのせた写真と、「和にも洋にも合うし、とても使いやすくて嬉しい」という手紙をくださったときは、とても嬉しく思いました。
陶芸・染め物の魅力は何でしょうか?
池田:陶芸の素材となる土は、長い歳月をかけて岩石が風化したものですよね。
その貴重な自然の恵みの土を手に取ってカタチにし焼き上げたら、食器として使うことが出来る。
そこには壮大なロマンと歴史が詰まっていると気付いたとき、陶芸ってすごいと感動しました。
それから、人はご飯を食べないと生きていけません。
器に温もりがあるとご飯も美味しくなる、そういう生活に密着した部分も魅力です。

伴田:土の採取から始まり、自分の手で全行程に携われるところが陶芸の魅力ですね。
染め物も制作していて、同じ島の土を使い土そのものの色で染め上げますが、こんなに綺麗な色が土にあることに驚きを感じています。
染めてから海水で布を洗い、色を定着させるのですが、豊かな大地ときれいな海がある西ノ島だからこそできる染め物です。
どんな思いで作品づくりをしていますか?
池田:土が持つ力をそのまま活かして、作ること。
少し歪んでいたり1点1点手作りだからこその面白さがあり、土にその人の生き様のようなものが表れたりする作品も魅力的だなと、5年間やってきて思うようになりました。

伴田:私も同じで、素地を活かしたものづくり、土のぼこぼこした表情を残した方が陶器らしくて、土の温かさを感じるものになるんだなと思い、作っています。
ものづくりで一番大切にしていることを教えてください
池田:長く愛用してもらえるよう、飲みやすさや持ちやすさ等、使う人のことを想像しながら作ることを大切にしています。

伴田:私は“土の勢いをいかして”作ることを大切にしたいです。
ろくろを挽くのが難しくて、何度もやり直してしまうのですが、あまり触らずに活きたカタチを出せるようになりたいです。
今後の目標、焼火窯の未来について聞かせてください
池田:先生が築き上げた焼火窯をこれからも守っていくことです。
隠岐の土を使った器や染め物は旅行のいいお土産になりますし、みなさん陶芸・染め物体験を楽しんでくださるので、観光業としての役割も継続していきたい。
また、西ノ島の廃校舎などを活用して観光で来られた方に陶芸・染め物体験をしてもらったり、地元の人と連携してワークショップを開いたり、西ノ島の活性化につながる取り組みもしていきたいです。

伴田:伝統工芸というと年配の方が好むイメージですが、若い世代にも魅力を伝えたくてSNSで発信しています。
現在は主に、体験に来られた方々の様子や作品を載せています。今後は自作の陶器に料理を盛り付けた写真なども載せて、“身近な工芸品”をアピールしていきたいです。

焼火窯について

海の見えるとても素敵な場所でした。
工房と母家は、地元の方に助けてもらいながら、加藤さん夫妻で作られたとのこと。
コーヒーをいただきながら、楽しそうに当時のことを話してくださいました。

後継者の池田さんと伴田さん。
今後も頑張って焼火窯を守っていきたいと語ってくれた2人の姿が印象的でした。
後継者を求めていた加藤さんも、「5年目でまだまだ教えることはありますが、いい子達に恵まれて安心して任せられます」と言っておられました。

土という悠久の時を経た大地の恵みと、美しい海がある西ノ島。
ここでしかできない焼き物と染め物は、独特の美しさと存在感を放っていました。

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